<![CDATA[TAK-Circulator Corporation - 細菌叢ブログ]]>Thu, 16 Sep 2021 00:38:44 +0900Weebly<![CDATA[細菌叢に関する基礎知識 第4回「アクネ菌について」]]>Tue, 17 Aug 2021 15:00:00 GMThttp://tak-circ.com/blog/-4​  正式名称はキューティバクテリウム・アクネス (Cutibacterium acnes; C. acnes)。以前はPropionibacterium acnes (P. acnes) と呼ばれていましたが、2016年に名称が変更されました。全長3~5 µm、幅0.4~0.7 µmの大きさのグラム陽性桿菌です。アクネ菌は通性嫌気性細菌であり、毛穴などで主に増殖しますが、酸素を分解する酵素をもっており、皮膚の表面にでてきても成長することができます。皮膚の細菌叢の中でも群を抜いて豊富に存在している皮膚常在菌です。
 皮脂を分泌する皮脂腺は毛穴の中にあり、皮脂が多く存在すると、アクネ菌が過剰に増殖して皮膚を刺激してしまいます。その結果、このアクネ菌を排除しようと免疫反応が起こり、炎症が起きて赤ニキビを作ったり、黄色い膿の原因となったりします。
​ ​このようにニキビの原因菌として知られているアクネ菌ですが、肌を正常な状態に保つ働きをする常在菌としても知られています。アクネ菌が脂質に富んだ毛穴にコロニーを形成し、病原細菌が肌に侵入することを防ぐことで、皮膚の細菌叢のバランスを維持しています。また、皮脂に含まれるトリグリセリドを分解し、短鎖脂肪酸やグリセロールを生成することで、pHの維持や、抗菌活性、保湿といった肌の健康維持に重要な肌環境条件を作り出しています。
 肌に良い影響と悪い影響のあるアクネ菌ですが、近年では、ゲノム情報を活用してその性質の違いを明らかにしようとする研究が進められており、ファイロタイプ (系統情報に基づいた群) と遺伝的特徴との関連性が見出されてきています。系統情報に基づいたアクネ菌の分類方法がこれまでに開発されており、16S rRNA遺伝子配列で分類するRibotype (RT) 法や、複数のハウスキーピング遺伝子の配列で分類するMulti locus sequence typing (MLST) 法、MLSTを改良したeMLST (expanded MLST) などが分析に用いられてきました。また、1つの遺伝子の配列情報だけで分類するSingle locus sequence typing (SLST) 法といった、より解析が簡便で高解像度なタイピング手法も開発されています。
 これまでのアクネ菌の研究によって、健康な皮膚で見られるアクネ菌がいる一方で、重度のニキビに関連するアクネ菌がいることが分かってきました。今後、アクネ菌の遺伝的な多様性の理解が進むことで、病原性のアクネ菌のみに作用する治療薬をはじめとした個別化療法の開発に繋がることが期待されます。
]]>
<![CDATA[細菌に関する基礎知識 第3回「真菌叢解析とは」]]>Thu, 17 Jun 2021 15:00:00 GMThttp://tak-circ.com/blog/-3​ 「微生物」とは、肉眼で詳細を把握出来ないくらい小さい生物の総称です。細菌や古細菌、菌類(キノコやカビ)、原生生物などが含まれています。この微生物は2つのタイプに分かれます。一方は原核生物で、ミトコンドリアや小胞体、ゴルジ体などの細胞内小器官をもたず、ゲノムDNAが折り畳まれた核様体を有している生物です。この原核生物には前回のブログに登場した「細菌」と高熱の温泉や深海、高塩濃度の池など過酷な環境で良く見つかる「古細菌(アーキア)」に分けることができます。もう一方は人間や動物、植物も含まれる真核生物です。ゲノムDNAが核膜に覆われた細胞核と細胞内小器官を有しています。このうち、微細で発酵食品で馴染み深い酵母やカビ、キノコが含まれる生物を「真菌」と呼びます。真菌は、胞子を形成するものが多く、無性生殖を行い、何らかの環境変化が起こると有性生殖を行う2つのライフサイクルをもっています。また、多くは定着性で、細胞壁を有していますが、光合成を行う葉緑体をもっておらず、体外の有機物を分解して細胞表面より吸収しています。
​ 真菌は疾患との関連性が多く報告されており、真菌によって生じる疾患を真菌症と呼びます。また、感染症に限らず、アレルギー性疾患や代謝物による中毒も真菌症に含めることがあります。真菌の寄生部位が表皮や粘膜に限局する場合は浅在性真菌症(白癬、カンジダ症など)と、真皮以下に寄生する場合は深在性真菌症に分類されます。
 この真菌症の診断や真菌の分類は、鏡検と真菌培養という手法が重要ですが、近年では分子生物学的解析を用いた非培養法での研究が主流となってきています。第2回「細菌叢解析とは」で述べた16S rRNA遺伝子解析と同様に次世代シーケンサーを用いて網羅的に真菌の存在比率を推定する手法が「真菌叢解析」です。この解析には、リボソームRNA遺伝子のサブユニットである18S rRNA遺伝子と26S rRNA遺伝子の間に存在する「ITS(internal Transcribed spacer)領域」、あるいは26S rRNA遺伝子内に存在する「D1/D2領域」が分類・同定の指標として広く用いられています(真核生物は28S rRNA遺伝子を有していますが、その中でも植物や真菌、原生生物は25〜26S rRNA遺伝子を有しています)。これらの領域は挿入、欠損、点変異などにより配列に非常に変化があり、近縁種や同種の識別、系統推定に威力を発揮します。
 因みに、ITS領域は変異速度が速いため、ヒトと魚のように系統的に遠い生物同士の比較に用いるのは適切ではありません。
]]>
<![CDATA[細菌に関する基礎知識 第2回「16S rRNA遺伝子解析とは」]]>Thu, 21 Jan 2021 15:00:00 GMThttp://tak-circ.com/blog/-216s-rrna​ DNA配列解読技術の進歩により、様々な環境(土壌・海水・生体表面や内部など)に生息する微生物から遺伝子情報であるDNAを抽出し、網羅的に解析(メタゲノム解析)することが可能になりました。これまでのように特定の微生物のみに着目した研究から、多数の生物群の相互関係を俯瞰的に捉える研究が進められています。
 ​「16S rRNA遺伝子解析」とは、微生物のうち「細菌」に着目し、その存在比率を推定する手法です。採取した微生物からDNAを抽出し、細菌と古細菌などの原核生物が有している「16S リボゾームRNA遺伝子(16S rRNA遺伝子 または16S rDNA)」という遺伝子断片を増幅・解読することで行います。16S rRNA遺伝子の塩基配列は細菌種毎に少しずつ異なっており、その配列の違いを解読することで、どのような細菌がどれ位の割合で存在するかを知ることができるのです。
​ 初期の研究では、解析したい細菌種をそれぞれ単離し、培養して増殖させた上で、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR: Polymerase chain reaction)によって16S rRNA遺伝子断片を増幅・解析していました。従って、単離培養できない(培養条件が確立していない)細菌種は推定することができませんでした。近年になって細菌叢の研究が急速に進展した背景には、単離培養を介さずに採取した微生物群の塩基配列を短時間に大量に解読することのできる「次世代シーケンサー」の開発と共に、配列情報の処理に用いるコンピュータの能力向上があるのです。 
 この16S rRNA遺伝子は、生命維持に必須な機能を担っており、変異が入ってしまうと死に至ってしまう領域があります(保存領域)。しかし、変異が入っても死に至らない領域(超可変領域)が保存領域の間に9つ点在しており(V1~V9)、進化の過程で変異が蓄積され細菌種の特徴を示すようになりました。16S rRNA遺伝子解析では、この超可変領域を菌種の推定に使用します。16S rRNA遺伝子は約1,500 bpの長さがあり、超可変領域の全ての配列を解読するには費用が掛かってしまいます。そこで、一般的にはV1〜V9の1部の配列(例えばV3-V4領域やV1-V2領域など)を解読・解析することで細菌種の推定を行います。ただ、解読する超可変領域の数や場所を限定すると、遺伝学的に近縁な関係にある種の分類が困難な場合があることを念頭において解析する必要があります。この16S rRNA遺伝子解析は、細菌種を分類を完全にできるものではありませんが、細菌叢の研究で非常に有用な解析手法となっています。
 因みに、リボソームRNA遺伝子は1細胞のゲノム当たりのコピー数が種によって異なっています。例えば、アクネ菌であれば3コピー、大腸菌であれば7コピー保有しています。従って、16S rRNA遺伝子のコピー数を解析することは、細菌数を調べることと同義ではありません。
]]>
<![CDATA[細菌に関する基礎知識 第1回「細菌叢とは」]]>Mon, 16 Nov 2020 15:00:00 GMThttp://tak-circ.com/blog/201116​ 私たちは細菌と共に暮らしています。常に体内の決まった部位に存在している細菌を「常在細菌叢」と呼びます。細菌といえば食中毒や腐敗、感染症などの言葉と一緒によく耳にすることから、悪いイメージがもたれていることが多いです。しかし、私たちの生活や身体にとって良い働きをする細菌も多く存在しています。私たちが普段から口にする味噌や醤油、チーズなどの発酵食品の生産現場においても細菌は多く活用されています。細菌は私たちにとって身近な生き物なのです。​
​​ 私たちの腸内には数百種もの細菌が生息しており、「腸内細菌叢」や「腸内フローラ」と呼ばれています。腸内フローラとは、多種多様な腸内細菌が腸で生息している様子が、花畑(フローラ)のようであることからこう呼ばれるようになりました。「常在細菌叢」でもっとも盛んに研究がおこなわれているのは、この腸内フローラについてです。この腸内フローラは、ビタミンなどの栄養素を合成して宿主に供給したり、免疫系を活性化させたり、発がん性物質を分解させたりと積極的に宿主に働きかけています。また、腸内フローラのバランスの崩れが肥満や生活習慣病である2型糖尿病の発症に関係していることがわかってきています。実験動物を用いた研究では、腸内フローラの異常によって肝臓がんや自閉症といった病気が引き起こされることが示されています。腸内フローラと健康の関係は現在脚光を浴びている分野であり、腸内フローラの改善を通じた病気の治療や予防、生活習慣病の改善が期待されており、腸内フローラの改善をテーマにした食品などが市販され、様々なメディアでも取り上げられるようになっています。
 
  細菌は、腸内だけではなく、口腔内や皮膚など私たちの身体の至るところに住み着いています。皮膚や毛穴にも非常に多くの細菌が生息しており、この皮膚にいる細菌は「皮膚細菌叢」と呼ばれています。細菌は1-10μm(マイクロメートル 1μm=0.001mm)ほどの大きさであり、私たちの目では見えません。しかし、ヒトの身体にいる細菌の数は膨大であり、腸内には100兆個、皮膚には1兆個以上が生息しているといわれています。ヒトの身体が約37兆個の細胞でできていることからも、いかに多くの細菌が身体に住み着いているかがわかります。
 
 この「皮膚細菌叢」についても研究が始まり、皮膚や身体の健康状態と関わっていることが明らかとなってきています。「皮膚細菌叢」は、病原性の細菌が皮膚に取り付いて増殖することを防ぐため、抗菌作用をもつ物質を生産して、病原菌から私たちの身体を守っています。また、「皮膚細菌叢」は皮膚に弱酸性の環境を作り出したり、保水成分を産生したり、皮膚上にできてしまった活性酸素や過酸化脂質を分解するなど、皮膚の環境を整える上でも積極的な役割を果たしています(図1)。通常、「皮膚細菌叢」は一定の状態に保たれていますが、何らかの影響でこの「皮膚細菌叢」を構成する細菌の種類や数が大きく変わると、皮膚のトラブルが起こりやすくなります。例えば、抗生物質の継続的な使用により「皮膚細菌叢」のバランスが崩れてしまうと、その抗生物質に耐性を持った細菌が異常繁殖して炎症を引き起こすこともあります。弊社の研究から「皮膚細菌叢」が乾燥肌や脂性肌、敏感肌などの肌質と関連していることや、シワやシミの多い肌や老化の進んだ肌で多く見られる細菌がいることがわかってきています。皮膚の状態と「皮膚細菌叢」は密接に関係しており、美しい肌を長く保つ上でも「皮膚細菌叢」に着目することが重要です。「皮膚細菌叢」の様子を調べて、その人に合ったオーダーメードの肌ケアを選択するという時代がすぐそこまで来ているのです。
  図1                               
]]>